SkypeはなぜLINEに負けたのか。
世の中には異常なほどの理不尽がいっぱいあります。その理不尽を説明しようというのが最近の私の経済学的研究なわけですが、今回はそれとはあまり関係がありません。
私はわりと以前からSkypeのアカウントを持っており、時宜によって活用していたりします。またスマホを使っていた頃はLINEも使っていましたが、どう考えてもSkypeの方が使い勝手が良かったですね。Windows版に限っての話になりますが、レスポンスが速いですし、通話品質も高く、グループ通話もできるうえ画面のキャプチャを相手に送ることもできます。Skypeを棄却してLINEを採択する理由がありません。
ところが、携帯端末に汎用OSが普及してからというもの、時代はLINEの一人勝ち状態となってしまいました。Skypeの真似事をしただけの欠損だらけのソフトが1億人に使われているという事実は、どこから来たものなのでしょうか。
まず革新的だったのが、「既読」機能。言うまでもないのでしょうが、これはLINE独自の機能です。Skypeには相手が書き込み中ということを示すアイコンはありましたが、メッセージを読んだというそのものは分かりませんでした(逆に書き込み中かどうかを識別する方がプログラムとしては難しいのではないかと思いますが)。とにかくこれによって相手がどういう状態にあるのかがはっきり分かるようになりました。要するに「読んだけど後で返そう」ができなくなったんですね。だったら退化じゃんっていう。
次に規模の経済。スマホが普及する以前は正当なソフトならば個人情報はユーザの同意を得てから取得するのが当たり前のことであり、その方法は大体CSVなど何らかのファイルから参照することがほとんどでした。しかし携帯端末では電話帳に電話番号、メールアドレスというスペシフィックに抜き取り可能なデータセットが存在していますから、私達が知らない間にデータを参照され、自動的に同じソーシャルアプリを使っているユーザを友達登録するという、ある種いらんおせっかい機能が追加されたわけです。無知であろうが、便利だというのが現実になってしまい、またそうしなければ時代に置いていかれてしまうという現状がある以上、結果論でこの問題を省みる人は一人としていないのです。
もう一つは、トースト表示です。プッシュでパケットを認識し、アクティブなタスクに割り込み、作業を中断させ、メッセージを送るなり何なりしないと次に進めなくなるという、今となっては当たり前ですが、よく考えたらこのLINEのトースト機能は、はっきり言って異常です。異常ですがやはりそこにテキストボックスが存在している限りは誰もその異常性を省みることはないのですから、この議論も無に帰すわけです。
SkypeとLINEの差は、たったこの3つでしかないと思います。たった3つですが、されど3つです。いずれパケット課金至上主義となり、キャリアメールは新規顧客に苦戦する時代がくることは間違いないだろうと予想されていましたが、LINEがその形を大きく変えました。LINEはユーザの意識を全てそこに集中させることで日本でのソーシャルアプリとしての地位を獲得したのであります。PCしか存在しない時代ではこのようなことは無意味だったでしょう。画面が狭く生産性が低い、しかしそれ故に我々愚民が高い生産性を誇っていると信じて止まないスマートフォンという媒体だったからこそ成し得たことなのでしょうね。
いずれにしてもOSや端末の多角化によってアプリ開発陣は苦境に立たされています。その影響か近年のメジャーアップデートでも、いわゆる「神アプデ」と呼ばれるような躍進は遂げられていない。経費を更に投入しない以上は、この醜い争いによるデフレスパイラル的状況を脱却するためには、やはりOSの画一化もしくは開発環境の統一・規格化の策定が急がれるところでしょう。